代表的なものを上げるとすれば、精神的症状としてはイライラしたり、気分の変動が激しくなったりして、自分の感情をコントロールできなくなる方がよく見られます。また、身体的症状としては、体のむくみや異常な眠気。これらは患者さんが自覚症状として非常につらいと感じることが多いようです。
ただPMSでは、一定の症状が同じように現れるというわけではない、というのが特徴です。イライラしたり、何となく人にあたりたくなったり、少し闘争的な感じになったりというアグレッシブな傾向の人とは逆にうつ傾向、外に出るのが嫌になってしまったり、無力感を感じたり、異常に疲れやすいという人がいます。感情の起伏が激しくなって、怒りやすい、涙もろくなったり、ちょっとしたことにすごく心を動かされてしまったり。眠くて眠くてどうしようもない人もいれば、逆に眠れない人もいます。
また複数の症状が同時に現れることが多いのも特徴です。
東京慈恵会医科大学 教授
婦人科腫瘍学、婦人科手術、がん化学療法、卵巣の生理・病理を主な専門とする。
普段接している患者さんでつらいとおっしゃるのは、自分で自分の精神的なコントロールができないという点です。すごく怒りっぽくなったり、いけないいけないと思いつつも、旦那さんに強く当たってしまったり。最近は仕事をされる女性も多くなりましたけど、仕事中の異常な眠気、これもコントロールができず非常につらいです。軽度の痛みであればある程度は自分で我慢もできますが、社会生活の中でコントロールができない症状というのはつらいのではないでしょうか。
PMSのことを、生理の前にはこうなるんだという、自分の性周期の中での体調の変化、くらいにしか考えていない方もいます。それで支障が全くない方もいる。ただ、きちんと対処することで改善は可能なんだということを知る必要があると思います。
PMSが改善可能であることを知らないせいで、人としてのいろいろな能力が十分発揮できないというのは社会的な損失ですし、その人個人にとっても残念なことです。きちんと対応することによって、そういった気分障害など、仕事に差し支えのあるようなことを忘れることができるのであれば、治療した方が良いのではないでしょうか。
会社を休まなければならないくらい辛かったり、日常生活に影響がある場合は相談されることをお勧めいたします。そこまでではないけど症状があるという場合は、薬局・ドラッグストアで購入できる医薬品などを上手に使うのも一つの方法です。
どういう症状があるか、月経との関係はどうかをまず問診します。たった1回の月経の前で症状があったというのはPMSとは考えづらいです。きちんとご自分の月経周期を把握・記録されていて、どれくらい前からその症状があったのかを確認します。他の疾患が隠れていないかどうかについても診ますし、必要があれば、血液検査をしたりすることもあります。
それから各症状に対応した薬を処方します。PMSは原因そのものがまだはっきりしていませんので、対症療法として、その人のつらい症状を改善できる薬を検討します。漢方薬や低用量ピルを使う場合もありますし、むくみが強い場合は利尿作用がある薬を使うこともあります。
また、生活指導も合わせて行います。運動、散歩とか、いわゆる気分転換ができる人は改善しやすいです。また、食事の面で嗜好が変わる人も少なくありません。非常に甘いものが食べたくなったり、コーラのようなソーダ飲料を飲みたくなる人もいますが、むくみが強い場合には水分摂取が良くない場合もあります。
病気はなんでもそうですが、例えば風邪も立派な病気です。だけど医療機関に行かないで自分でコントロールして直す人もいます。家でじっとして、あたたかくして、乾燥しないようにしたりとか。ただ、少し熱が出てきたり、頭が痛くなってきたりすると、薬を飲んだり、医療機関に行ったりします。PMSに関しても、自分でやるかやらないかはともかく、セルフメディケーションについて知っている必要はあると思います。最終的にそこで薬を飲むか、飲まないかというのはその人の考え方次第。自分自身をコントロールする上で必要だと思えば、セルフメディケーションは必要だと思います。
30代くらいで、精神的な動揺と傾眠傾向のある方がいました。月経前になると仕事が手に着かなく、ご主人にもあたってしまうということで病院にいらっしゃいました。また、月経前になるとクッキーが食べたくてしょうがなくなってしまうようで、月経の前には簡単に2~3kg増えてしまうとのことでした。そのときは漢方薬を処方しましたが、非常にそれが効いて、PMSを気にせずに仕事ができるようになり、むくみも減って喜ばれていました。
PMSはきちんと自覚をして対処すれば、全く心配する必要のないものです。正しいセルフチェックをして頂いた上で、運動や食事に気をつけたり、薬局・ドラッグストアで買えるお薬などを利用してみるなど、いろいろと自分でできることもあります。症状がひどいと感じる場合は、医療機関でご相談ください。